純和式の畳が浮世絵の額縁になりました
IWCS:国際木文化学会 (International Wood Culture Society) は、ロサンゼルスを 本拠地とする非営利団体(NPO)であり、2007年に設立して以来、木の文化の研究・ 教育.推進に重点を置き、木文化の国際シンポジウムやドキュメンタリー等の活動を 行っています。
2013年から毎年3月21日の「世界木材の日」に、”World Wood Day” と題して、 下記のような世界各地で木文化のイベントを開催してきました。
2018年:カンボジア、ラオス、ミャンマー
2017年:USAロサンゼルス
2016年:ネパール
2015年:トルコ
2014年:中国
2013年:タンザニア
IWCSは伝統木版を木文化のひとつと着眼して、2017年よりWorld Wood Dayの参加を依頼されました。下記はその参加実績の記録となります。
World Wood Day(WWD) 2018のミッションコンプリートして、本日(3/27)カンボジアから無事帰国しました。
あまりに多くのことを経験し、あまりに忙しく、進捗状況をタイムリーにご紹介する時間が全然取れませんでした。しかし、すべてが事後報告とはなりますが、今回のカンボジア遠征について、以後数回に渡り、まとめて紹介してゆきたいと思います。
最初に国際木文化学会(IWCS)から、WWD2018参加の依頼があったのは、1月末でした。 昨年のイベントと同様に、彫師・摺師の実演を行うことに加えて、今回はスペシャルな取り組みとして、来客参加の体験摺りを行いたい、との依頼がありました。
というのは、カードサイズではありますが、熱田神宮の写真をトリミングして木版画用のデザイン化し、伝統木版の技法に基づいて木版画することができること をIWCSと情報共有していました。そこで今回、カンボジアのアンコールワットの写真を基にデザイン化、伝統木版画化をして、それを使って来客参加の体験 摺りを行いたい、という要望でした。
ただ、画面の大きさはB5サイズ程度と大きくなり、彫り作業費も膨らみ、また体験作業の各工程ごとに必要な専用工具、部材なども費用も必要で、それらすべてIWCSの負担にしてでもやるべき、との判断を下したのは、2月末となりました。
それから猛スピードでそれらの準備を進めましたが、素人の来客でも摺りを体験できるように、版木はシンプルな4枚構成でデザイン化し、4工程分の必要な工 具・部材もすべて準備し、4枚の版木すべてが彫り上がったのは3月18日という、出発前日のギリギリセーフとなりました。
滞在した Angkor Century Hotelは、とても広いホテルで、その敷地内でイベントが開催されました。ホテルのバックアップもあって、ホテル前の道路には巨大なPR看板が立ち、そ こは昨年の岡田さんのデモ写真が大きく掲載されていて、とても嬉しく思われました。(写真上)
開催前日の20日は準備Dayでしたが、大きなテントをいくつもつなぎ合わせて、その下に各ブースがあるという野外展示で、日中は35℃を越える猛暑であり、常に暑さとの戦いが始まりました。
まず、木版画は直射日光厳禁の為、当初テント縁の配置してあった我々のブースを、テント奥へと移動する配置交換を行いました。
次に職人さん作業の床の底上げをしましたが、その準備は去年とはまた別の方法で進めました。
まず、土台となる多数のレンガ(ブロック)を現地調達して、その上に乗せる板は、テーブル用の板を転用し、更にその上には、ホテルから借用したじゅうたんを敷いて完成させました。 そして、その回りにテーブルを配置して、作品の展示や摺り体験ラインを作ろうとしていたところ、突然雲行きが怪しくなってきました。雨期の前とはいえ、結構な雨が降り出したのです。
テントとテントの境で雨がボタボタと落ち、また我々のブース上で、雨水が貯まることが発覚し、水抜きを行う必要まで出てきました。(写真下)
一旦配置した部材、作品なども撤去して雨よけを行い、雨が止むのを待ちましたが、結局その気配も無く夜となり、その日の準備を断念しました。明日はオープニングセレモニーの後、開催となりますが、そのセレモニー中に抜け出して準備を進めるしかなくなってきました。
21日の開催日は雨も止み、オープニングセレモニーから始まりました。今年は昨年とは違い、外部の報道カメラマンがたくさん来ていました。今年は、カンボ ジアが国をあげてこのイベントを支援しているようで、国家レベルのVIPが来賓として招かれている為のようでした。とはいえ、ブースの準備が未完成である 為、我々は途中退席してイベント会場へと向かい、突貫準備を進めました。
まず、摺師の岡田さんは、体験摺りで必要となる4色の絵の具の色相・濃度を決める為、速攻で試し摺りを行いました。(写真左上)
さすが彫師の関岡さんの版木はうまくできていて、この版木で特に問題もなく摺れることも確認でき、試し摺りにしては上々の仕上がりでした。(写真中央)
各工程それそれ、絵の具、版木、ブラシ、バレン、のり、手拭き、があり、絵の具と版木のみが各工程で異なる4工程となります。(写真右上)
IWCSのマークとAngkorの文字はスタンプ対応としました。これらを最終工程(第4工程)に置き、体験者が摺り完了後、位置を自由に押せるようにしました。
岡田さんが作った各工程の絵の具、関岡さんが彫った4枚の版木を各工程に配置し、体験摺りラインが完成しました。続いて作品等の展示エリア、職人の実演エリアも完成しました。(写真下)
オープニングセレモニーが終わると続々と来客者が訪れますので、その直前になんとか準備完了し、いよいよ本格稼働が始まりました。
本格稼働を始めたころ、最初に何やら黒い集団が我々のブースに近寄ってきました。後で知ったのですが、それはオープニングセレモニーで報道陣が取り囲んで いたVIP、カンボジアの現文部大臣、かつてはネパールの大統領もやられていたお方が、我々のブースに来られたのでした。
そうとは知らない私は、この文部大臣に普通に、伝統木版の説明をして、今回アンコールワットの木版画が体験摺りができるようにしたことなどをお話ししてい ると、私の耳元で「Souvenir! Souvenir!」と話かける人がいました。このお方はIWCS(国際木文化学会)の統括責任者マイク・ホーさんで、何か手みやげでも差し上げてよ!と いうご要望でした。そこで、でき立ての試し摺り品で、一番良いものを大臣に差し上げて、とてもご満悦なご様子となり、よかったのですが、マイク・ホーさん もその作品を見てとても喜んで頂けました。というのはIWCSのスタンプが押されていたからです。それはIWCSのWebサイトから、こっそりロゴをダウ ンロードして、画像修正してスタンプ化したものなので、内心ヤバいかなー?と思っていたのですが、統括責任者にとても感謝されたので、結果オーライですね!(心正堂の柴田さん、ご協力ありがとうございました!!)
尚、突然の見学でしたので、写真は無いので、その時の想像図を描いてみました。(写真上) それから、ようやく一般の来客を迎えて、説明をしながら摺りの体験をしてもらいましたが、それなりにアンコールワットに仕上がると、みんな大喜びでした。
しばらくすると、また変わった集団が来ました。今度はカンボジアのテレビ局の取材でした。5つぐらいの質問を受け答えして、いろいろカメラに映像を納めていましたが、地元のテレビは見る暇もなかったので、結局どんな映像がTVで流れたかは不明です。
そんなことで、稼働初日は何か気分良く終わりましたが、でも次ぎの日からは地獄でした。文部大臣効果か地元TV効果か分かりませんが、朝からものすごい数 の来客、特に小中学生が殺到してやってきたのです。「もう全然対応し切れない!」という程の混乱状態となってしまったのです。
製造ラインであれば、海外問わず作業指導などは私のお家芸なのですが、この木版画の体験ラインというのは、どうもかってが違いました。製造ラインであれ ば、一度作業指導をすれば、後は製造物だけが各工程を移動してゆきますが、この体験ラインといのは、製造物(紙)が移動すると共に、作業者も各工程を移動 するのです。(写真上ご参照)
各工程すべて同じ作業内容なら最初の作業指導だけでいいのですが、工程によって一部注意すべきことが違う為、常に4工程×人数分の作業指導が必要となり、指導員が私ひとりでは、全然回らなくなってしまったのです。
また、後工程で作業指導をしていると、新しい体験者が自己流で作業を始めたりして、悲惨な仕上がり品が大量にできはじめ(写真中左)、見かねて彫師の関岡 さんが指導員をやって頂けたのですが、英語が話せないということもあって、作業内容が伝達できず、うまく回せませんでした。(写真中右)
しかし、関岡さんのお助けによって、気がつきました。要は技術うんぬんという問題ではなく、コミュニケーションが取れる人であ れば指導員になれるのです。押さえるべきことは、技術的には難しくなく、そのような木版画に設計してあるからです。そこで、私はIWCSのスタッフに応援 を依頼しました。「技術的なことは考えなくていいから、とにかく英語の話せる人を誰か出してください」とお願いしたところ、ユウ・ウェンさんというお方の お助けがありました。(写真下左)
ものの5分で彼女への指導は終わり、即、指導員として動いて頂けました。それから、ようやく上手く回るようになってきました。
指導員は、彼女以外にも何人かのスタッフになってもらいました。部長クラスの方(シャーロット・リーさん)にも楽しんで指導員となってもらいましたが、指導を実践したのは1回ぽっきりでした(写真下右)。
スタッフも忙しいので常に我々のブースに在中するこが難しく、結局はユウ・ウェンさんが一番頼もしい助っ人となりました。
そうやって、IWCSのスタッフのお助けを得ながら、体験ラインをなんとか回せるようになりましたが、更にまた新たな問題が生じてきました。あまりの来客の為、部材が枯渇してきたのです。
消耗品の部材は、日本からかなり多めに持って来たものの、想定外の来客の為、枯渇してきました。汎用性のあるものは、スタッフに頼めば入手可能でしたが、やっかいなのは「絵の具」でした。
本来、摺師が使う絵の具は、固形状の顔料を使いますが、海外遠征時は税関等で問題となる恐れがあり、通常の水彩絵の具を代用します。とはいえ、なるべく高 品質なポスターカラーを使います。このような物は人任せにもできない為、我々3名で枯渇した黒色の絵の具を入手すべく、夜の町へと買い出しに出かけまし た。カンボジアは貧しい国ではありますが、有名なアンコール遺跡のある近辺では、滞在しているホテル近くに夜でも賑やかな「Night Market」があります。(写真1)
ホテルからの足は「トゥクトゥク」と呼ばれる、スクーター(スーパーカブが多い)が牽引するミニタクシーを使いました。これでも最大5名まで乗車可能で、通りには頻繁に走っていて、3~5ドルで10~15分は乗車できてとても便利でした。(写真2)
ナイトマーケットには、土産屋、レストラン、バー、 雑貨店、マッサージ店、等々実に多様なお店で賑わっていて、そんな店を観光しながら、偶然にも一軒の文具屋を見つけました。(写真3、4)とてもまともな 文具屋さんで、なんとポスターカラー(黒)もしっかり売っていました。しかも4個でたったの2ドル!! 後日、使用してみますと特に問題もなく、実にお買い得な商品でした。(写真5)
文具屋で買い物を済ました後、喉が乾いた為、ヤシの実丸ごとジュース、マンゴー1個を食べました。とってもおいしくて、食あたりもしませんでしたが、それぞれ2ドル、1ドルしかしないのには驚かされました。(写真6)
また、連日のハードな立ち仕事で、足がガクガクになって、歩くのもままならない状態だった為、試しに「足マッサージ」をやってみました。両足20分でなん とたったの3ドルでしたが、マッチョなお兄さんが、足のツボや筋肉の筋など、ガンガン揉みほぐしてくれて、足の疲れが全くと言っていいほど無くなりまし た。(写真7)そしてその日以降もずっと足の疲れが出なくなって、驚異の効果が続きました。
このナイトマーケット、治安も悪くなく、驚異のコスパがありますので、暑いのを我慢すれば、とても良い観光地だと思われます。
足の調子は良くなり、部材にも心配がなくなり、さあ順調に体験ラインをこなせるぞ!と思ったのですが、やはり助っ人の指導員が時々いなくなると、怒濤のよ うに訪れる人々をさばき切れずに四苦八苦しました。どうみても他のブースではこんな状態ではなく、私の体験ラインだけ異常事態を生じていました。(写真 1)
一度、IWCS(国際木文化学会)の取材を受けた時に、その理由が分かった気がしました。取材をした男性自身が体験摺りを行いましたが、黒色の摺りが終 わった紙を版木から取り出す際に、わざと回りの人たちに見えるような取り出し方をしました。すると回りから「ウォー!!』という大歓声が上がりました。突然アンコールワットの精密な輪郭線が現れたからです。(写真2)
アンコールワットは、カンボジアの国旗にも描かれていて、この国の象徴でもあります。(写真3)
今回、デザインを起こす際、オーダーメイド的な発想で、カンボジアの人達が好みそうなものとして、スタッフと共にアンコールワットと決めましたが、それが見事に来訪者のツボにハマったようでした。
このように、イベント期間の5日間、最後の最後まで指導にあけくれていました。結局、何人の人達に体験して頂いたかは、正確な数は分かりませんが、使用した紙の枚数から、(廃棄した紙も多数ありますが)550~600人位になるのではないかと思われます。
イベント最終日、夕方から閉会式が予定されていましたが、スタッフから私の方に「ステージに上がってもらうので一番前に座ってください」との依頼がありま した。内心、何かもらえるのかな?とも期待しましたが、ステージに上がって頂いたものは、シルク100%のアンコールワットの絵入りスカーフと修了証書で した。(写真4~5)いずれも"特別"といえる程のものではありませんでした。そもそも、IWCSというのはNPOであり、このイベントで販売を行うこと や、特定の団体に肩入れすることも、きつい御法度としている非営利集団だからです。 でも、そうはいっても、100ヵ国以上が参加しているイベントで、ステージに上げられたのは7人だけでしたので、IWCSならではの「粋な計らい」が感じられるものでした。 私は、このスカーフと修了証書をステージ上で受け取った瞬間、『初めてのオーダーメード木版が成功した!』との確信を得たのでした。
今回、体験用としてオーダーメイド的にアンコールワットの木版画を作ったわけですが、当初、IWCSの担当者からの製作依頼は、体験用の木版画はできない か?という程度のかなり漠然とした依頼でした。IWCSは我々の渡航費用、準備費用をすべて負担して頂けるのに加えて、この体験用木版画の準備費用も負担するつもりで、まずは見積もりを出してもらいたい、とのことでした。
専用のバレンやブラシといった各工程で必要となる工具類に加えて、版木を新規作成とする場合(Plan-A)と、既存品を使用する場合(Plan-B)で 大きく異なり、前者は311,000円、後者は81,000円と見積りました。Plan-Aは高額な反面、イベントに応じたオリジナルなものを作れるとい う利点がありましたが、担当者からはPlan-Bについて詳しく教えて欲しいという話もあり、Plan-Bになるものだと考えていました。
ところが、出発前1ヶ月にようやく最終決定が下されましたが、その答えはなんと「Plan-A以外には考えられない」というものでした。イベントはそのお陰もあって、大盛況で終わりましたが、誰がその決定を下したのかは、最後まで疑問でした。
イベント終了の翌日、つまり帰国日でしたが、偶然ホテルのロビーでIWCS総責任者のマイク・ホーさんとお会いした。挨拶も兼ねてこの話をしをして、マイクさんがこの決定をしたのではないのかと問いただしてみました。すると答えは「YES」でした。
私はマイクさんに「オーダーメイド木版という新しい試みをさせて頂いて、とても感謝しています」と申し上げたところ、マイクさんは私とガッチリと握手をして、「その木版画で体験イベントをやってもらって、本当にありがとう!」と逆に大変感謝されました。
また今後のWorld Wood Dayについて、「来年2019年はオーストリアに決まり、再来年2020年はついに東京に決まったよ!」と喜んで話されていました。
そう、2020年は東京五輪に合わせて開催することを、前々から企画をしてたそうで、日本側とも調整を進めてついにそれが決まったそうです。このお方、只者のではないとつくづく感じました。
帰国後、その関連のWebページを見つけました。まだ、決定した段階の記事ではありませんが、日本側でも大きな組織が動いていることが分かります。マイク・ホーさんの写真も出ていますが、下記URLをご参照ください。
http://www.jpma.jp/info/170404.html
今年のWorld Wood Dayは75カ国、120名もの参加があったそうですが、日本からは伝統木版画以外にも、からくり工芸、ペーパークラフトの参加があり、ものづくり大学の学生の参加者もいて、皆な親しいお友達となりました。
そんな人達のブースであったり、他の国々の人達のブースも紹介したいのですが、いかんせん今回はあまりの来客で多忙を極め、他のブースの写真すら撮る余裕がありませんでした。
とはいうものの、IWCSから、とても出来栄えの良いビデオが編集されましたので、これを是非ご一見ください。
残念ながら、私のブースはパニック状態だった為かここには納められていませんが、それを除けば、このイベントがどんなものだったか、とても良く分かる大変優れたビデオに仕上がっています。
http://www.worldwoodday.org/2018/regions/Cambodia
5日間のイベント開催中、参加者全員でアンコールワットへ見物に行き、その近くで植樹を行うという行事がありました。
アンコールワットはカンボジアが誇る世界遺産、アンコール遺跡のひとつで、12世紀前半に30年を越える歳月を費やして建立されました。建物は無数の石レ ンガで築かれており、正方形的な敷地内に数本の高い塔が対照的に立てられていることから、東門から見た全体像と西門からみた全体像がほぼ同じように見える という不思議さがあります。(写真左上:東門より)
建物や塔の内部の多くが閲覧可能であり、サービス満点の世界遺産です。(写真右上)
今回製作した木版画は、何百点ものアンコールワットの写真の中から、これがベストというものを2つに絞り、その合成的なデザインを元に作りました。それが 実際どこから撮った写真だったのか、確認したくなりました。それは東門ではなく、西門からだということが分かり、更に細かくアングルを確認し、ついにその 撮影位置をつきとめましたが、愕然としました。
見学に行ったのは午前中であった為、東からの日差しが強く、アンコールワットは逆光となってよく見えないのです。(写真下)
もちろん、午後に来ればより良い風景が見えたのかもしれませんが、旅の都合はそうもいきません。私としては、この時間にしか来る機会はありませんでしたので、明らかに、きちんと摺った木版画の方が、現物よりずっと良かったのです。
『作った木版画が現物を越えている』という貴重な体験ができました。
ちなみに、写真中央の木版画の映像は、現地で摺ったものではなく、帰国後に摺師(岡田さん)が彼の工房で摺ったものです。というのは、現地で摺り増しした分は、うまく摺れなかった人に全部贈呈してしまった為、サンプルが1枚も残らなかったからです。
帰国後の摺り増し分は、岡田さんならではのテクニックも加えてありますので、グレードアップ版とも言えます。これを今、お世話になったIWCSのメンバー宛に台湾へ送ろうとしています。
まだまだ、話が先に続いてゆきそうですが、カンボジア遠征特集としてはこのくらいでお開きにしようと思います。長らくどうも失礼致しました。。完
突然ですが、このほど「World Wood Day 2017」というイベントに参加する為、ロサンゼルスに行くことになりました。
主催のInternational Wood Culture Society(国際木文化学会)という財団法人より「伝統の木版画制作のデモンストレーションをこのイベントで是非行って頂きたい」とのオファーを受け、私の作品作りに協力して頂いている、彫師の関岡さんと摺師の岡田さんと同行して、参加することになりました。
現地では、彫り、摺り、の実演に加えて、作品や工具の展示、それらの説明、そして20分ほどのプレゼンなども予定されており、出国は3月19日、帰国が29日の予定です。
渡航費用や滞在費、準備費用も協会側が負担して頂けるというありがたいお話ですが、今そのもろもろの準備に忙殺されております。
ロサンゼルスでのイベントにご招待頂いた、国際木文化学会という財団法人は、木材の活用を再認識し、研究・普及に努める非営利団体(協会)です。
年に1度「World Wood Day」と言われる、世界各地より木材を活用した工芸品や商品などを展示、紹介するイベントを、世界各地で開催しています。
伝統の木版画というものは、版木は山桜の木を使用し、和紙は楮100%ですから、確実に木材から生まれています。確かに、木材の特性を最高度に活用した木工芸品ですよね。
協会はそこに注目したのですが、その着眼点には、とても感銘を受けるものがあります。
【ご参考】World Wood Day 2017のポスターを添付しました。
(イベントURL)
http://www.worldwoodday.org/2017/
(参加メンバー紹介:私)
http://www.worldwoodday.org/2017/folkart_3
ロサンゼルスはカラリとした海風が吹く、さわやかな春となっています。 19日にロサンゼルスに到着以降、突貫工事を経て伝統木版のブースを作り、彫り&摺り作業の実演を行っています。
(添付資料の解説)
上:場所はLong Beachのコンベンションセンター。すべてのブースは室内展示であり、あまりの大きさの為、建物の全体像は未だよく分かりません。。
中:床を底上げする方法は、現地のスタッフのアイディアにより、セメントブロックを多数並べて厚い木板を乗せて実現できました。壁が無いので、作品を普通には飾れませんが、テーブル上に並べて、一部角度を付けて、見栄えを良くしています。
下:実演を始めると、次々と見学者が集まってきます。かなりテクニカルな質問を受けたりもして、解説に尽力しています。説明して「Amazing!」と叫ばれる方もいて、嬉しくなります。
今回、北斎の名作「神奈川沖浪裏」の版木をハンドキャリーして、摺り作業の実演を行っています。
摺りの作業が始まると、たくさんの人が集まってきて、私もその解説で大忙しです。
この作品の極めて優秀なところは、これだけの名画であるのにもかかわらず、たったの8〜9回摺りで完成できることです。イベントにおいては、摺り始めから完成までのすべてをお見せすることができるので、本当に助かります。
浮世絵の絵師は筆で墨線を描いただけで、絵作りは職人の腕によるものなのですが、北斎においては職人のことまで考えたデザイン作りをしていたので、まさしく天才です。
天才北斎には、感謝、感謝です。
すでにロサンゼルスからは無事帰国しました。後追いとなりますが、現地レポートの続報を紹介致します。
現地にて北斎「神奈川沖浪裏」の摺り実演を行いましたが、仕上がり品には「規格外品 Spec Out Product」とのスタンプを押して、見学者に贈呈するようにしました。
(上部写真ご参照)
これは、現地の環境下では十分な品質を確保することが難しいので、職人としては人に渡したくないという意向があった反面、協会側からは無償で見学者に渡したいという意向があり、この相反する意向を両立する為に、私が考え出した”苦肉の策”でした。
このスタンプで、贈呈する問題は解決しましたが、仕上がる数量が見学者の数に満たない為、贈呈する人を選ぶ必要がありました。
まず、実演作業をじっくり見られる方を最優先としました。そして貢ぎ物を持っ来る方も。つまり、トレードですね。そんなトレード品は、今回のイベントにおける各国の木作品でもあり、写真と共に紹介します。
(写真中段左)
アラビア文字をアートとして描く方からの貢ぎ物。私の名前「川崎章治」をアラビア文字でアーティスティックに描いてくれました。
(写真中段右)
歴史的にいって、日本の浮世絵のルーツは中国の木版にありますが、その古典的な技法をそのまま現在に受け継いだ中国木版です。白黒の1回摺りですから、すごい数を摺っていました。
(写真下段左)
韓国のシンさんから頂いた木製のオブジェ。何を意味するのか分からないところが、韓国風‥?
(写真下段中)
フィリピンの木製コマ。カラフルな色を彫りを入れて引き立てています。結構、よく回ります。
(写真下段右)
台湾の人から頂いたダイヤモンドカットした木工芸品。薄い板との合板構造となっています。台湾の木材加工技術、恐るべし!
このイベントの期間中、すべての参加者は同じホテルに宿泊しました。それは、クイーン・メリー号。なんと全長310mもある大型客船でした。
本船は1936年から1967年にかけて北大西洋を横断する定期便として運航していて、あのオードリー・ヘプバーン なども乗船したことのある豪華客船だったそうです。
1967年に引退後は、ホテルとして改装されここロングビーチに静態保存されています。写真からすると、いかにも豪華客船!という感じですが、1967年に改装されたままのようで、内装にしろ設備にしろ、単なる古めかしいホテル感が強いです。
部屋は参加者すべてグループ部屋で、我々は2室ある3人部屋でした。船主と船尾に大きなレストラン部屋があり、そこでの食事がフリーでしたが、典型的なアメリカ食でしたので「まずくはない」という感じでした。宿泊費、食事代すべて協会持ちでしたから、贅沢は言えませんね‥。
まあ一応、豪華客船に泊まった、ということにはなるのかな?
今回のイベント名は「World Wood Day 2017」といい、世界100カ国以上の参加があり、各国の手作り木製品を製作現場を見せながら紹介する、というような展示会でした。
下の写真にあるような、大きな木工芸品を手作りしているブースが多く、ノミをハンマーで叩いて削る音が、会場中に響き渡っていました。でも中には、丸太から極めて微細な3D加工を行う造形アートもあって、そのレベルの高さには驚かされました。(写真左下)
ただ、どこの国の作品も、木材を加工して、一部着色を加えて完成するのが一般的ですが、我が国の伝統木版とは、そんな程度のものではありません。木材を加工した版木を何枚も作り、全く別工程で楮100%の和紙を作り、何10回もの多色摺りによって、完成に至ります。
我が伝統木版ブースはとても人気があったのですが、その異次元ともいえる製作技法が、あたかも驚愕マジックのように見受けられていたようです。
日本からの参加は、私達だけではなく他にもありました。 ひとつは、現代風からくり人形(AUTOMATA)を制作されている、原田夫妻です。
http://nizo.jp/
写真にあるような、ユーモアのあるからくり人形を多数作られていますが、作品を見てもらうだけでなく、デコレーションメガネを参加者に作ってもらうようなイベントをやられていました。
あと、大学教授で参加されている方もいました。島根大学の山下晃功教授ですが、カンナ職人の善し悪しを物理的に解析・研究された方ですが、このイベントでは「ロボッキー」が注目されていました。(写真左下)これ(彼?)は、ロボットの形をしていながら、なんと100%木材でできており、何も動く仕掛けがありません。彼は絵本で登場する森の妖精というか、主人公げんき君のお友達なんですよね‥。
http://www.mokuiku.jp/tools/kamishibai/
木育の一環として、その絵本を紹介すると共に、15cmくらいの組み立て式ロボッキーを配布していました。それが、摺師岡田さんのツボにはまり、惜しげも無く作品を身にまとった「浮世絵ロボッキー」を即席で完成させて、山下教授にプレゼントしました。(写真右下)
こんな感じで、日本人通しの交流も深まったんですよね。
今回のイベント「World Wood Day 2017」はロサンゼルスでの開催でしたが、今年で5年めとなり、過去4年の開催地と参加国、参加者は次のようなものだったそうです。
2013年 タンザニア(ダルエスサラーム) 45カ国 300名
2014年 中国(仙遊) 71カ国 300名
2015年 トルコ(エスキシェヒル) 93カ国 380名
2016年 ネパール(カトマンス) 100カ国 500名
そして今年は、85カ国 580名だったそうです。
主催はIWCS(International Wood Culture Society: 国際木文化学会)ですが、当初はちょっと怪しい協会かな〜?と思っていましたが、終わってみますと、渡航費用に宿泊費、食事代のみならず、国内での準備費用、材料費、交通費などもきっちり支払って頂けて、すこぶる真っ当な協会でした。
下の写真は、IWCSスタッフから頂いた、我々のブース用のPR資料と参加証書です。
職人さん2名も当初はあまり乗る気がない面もありましたが、終わってみますと、いろいろと学ぶことがあってか「また行きたい!」と言うようになり、とても嬉しく思われます。 我が伝統木版チームはIWCSスタッフからの評価も高いようで、来年もオファーされそうな気配が強いです。来年はどこの国になるかは分かりませんが、またお呼びがあれば世界のどこへなりとも喜んで参加したいと思っています。
今回のロサンゼル遠征で、貴重な体験ができたことは、世界の多くの人たちに木版画とそれを作る作業を見て頂き、会話を通して様々な意見を聞けたことでした。また、どんな説明をすると、驚き、喜ばれるかも学べたことも貴重な体験でした。
現地の木版画ブースからそれを振り返ってみます。
1)摺師が摺り作業を始めると、たくさんの人が集まってきます。(写真上部左)
2)この作品では9回の重ね摺り作業ですが、4回の重ね摺りで完成するサンプルにて重ね摺りの原理を説明します。特に「見当」の説明によって、正確な位置合わせができることに感動する人が出てきます。(写真上部右)
3)各色ごとに版木を彫りますが、いかにして精巧な彫りを行うかを実際の版木を使って説明し、そのレベルの高さに驚嘆する人が出てきます。また、下絵は版木に描くのではなく、原画を上下反転で貼付けて下絵としますので、その誤差ゼロの古典技術に感銘する人もいました。(写真中央右)
4)再び摺り作業にて、裏から作品を見てもらいます。色が裏からも見えることから、これが通常の機械印刷との決定的な違い、と説明します。機械印刷ではインクが紙の表面に乗っているのに対して、木版画は絵の具が紙を貫通しているからこそ、独特の発色をしていることを理解・共感して「だから3D的にも見えるのね」と言ってくれる人もいました。
5)再び、作業しているのは9回の重ね摺りですが、と前おきして、陳列している作品を見てもらいます。江戸時代デザインの浮世絵では、15回〜20回摺り、と説明して浮世木版オリジナル作品を指差して「これだと40回位くらい」と説明します。すると"Amazing!"と叫ぶ方が多くいて、オリジナル作品を絶賛される方もみえました。とても嬉しい経験でした。(写真下部)